蘭拓SS(神童死ネタ)

 
 最近の神童はおかしい。
 いや、前から様子は変だったが…
 
 ここ一週間ぐらい…
 ホーリーロード全国大会が始まってからか…
 
 その様子は悪化していた。
 
 
 「キャプテン!」
 「あぁっ!フォルテシモ!!!」
 
 練習中。
 三国さんがキーパーをしているもとで、神童がシュートを放つ。
 その直後だ。
 最悪な瞬間を目の当たりにしてしまったのは…
 
 「っ…」
 「っさすがだな、神童…?神童、大丈夫か?顔色悪いみたいだが…」
 「っあ…だ、大丈夫、です…ははっ…」
 
 苦しそうに眉を寄せ、胸元を握りしめている。
 それを見た三国さんが神童に声を掛けるが、神童は力なく笑ってごまかそうと試みた。
 けど、俺にはそんなの、ごまかせるわけない。
 
 「三国さん…神童、どうかしたんですか?」
 「ん?あぁ…何でもないよ、霧野」
 「はぁ……」
 
 何でもない、そんなわけない。
 神童は始めたばかりの練習なのに、尋常じゃないほどに汗だくだった。
 俺は神童に駆け寄り、その肩に手を置く。
 
 「神童、大丈夫か?息上がってるし…風邪でも引いたんじゃ…」
 「っ…霧野、悪いな…俺は大丈、夫…………」
 
 その時だ。
 時間がスローモーションのようにゆっくりと感じてしまうはどで。
 目の前の神童はふらり、とその場に倒れたんだ。
 
 「神、童………!?」
 「はぁ、はぁ、はぁ」
 
 激しく肩を上下して息をする。
 必死に胸を掴みながら。
 
 「おい、神童!?どうした、神童!!?」
 「神童!!!」
 
 その後はすぐに円堂監督が救急車を呼んでくれて、神童は駅前の救急病院へと運ばれたんだ……
 
 神童は、幼い頃からの心臓病持ちだったらしい。
 俺は何年も皆より一緒に過ごしてきたはずなのに。
 初めて、その事実を聞かされたんだ…
 
 「守くん…」
 「!冬っぺ!どうだ?神童の容態は……」
 「………」
 
 ここの看護師さんは監督達の知り合いで、10年前のイナズマジャパンのマネージャーだったらしい。
 そんな彼女は監督に聞かれ、一気に顔色を豹変させた。
 
 「神童くんは…もう永くない、と先生が…」
 「なっ…!!?」
 「……っ神童!!!」
 「霧野!!」
 
 病室に運ばれる神童を追い、俺はただ、その告げられた事実を嘘だと自分に言い聞かせながら点滴を打たれた神童を見つめた。
 
 「………ん、霧、野…」
 「神童!!」
 「俺…あぁ、霧野…聞いたんだな…」
 「心臓病って…どうして…」
 「黙ってて悪かったな…霧野…」
 
 そう言う神童はまた苦しそうな笑顔で。
 俺はいたたまれなくなって神童を抱き締め、肩に顔を埋めて泣いた。
 
 「ばか…いやだ…死ぬなよ、神童…」
 「霧野…ありがとう…俺、霧野に逢えて本当に良かったよ…」
 「何言って…まだ神童は…やらなきゃいけないことがあんだろっ…」
 
 霧野。
 俺を真剣に見つめる神童は死を目前とした恐怖で揺れていなかった。
 しっかりと俺を瞳に写し、笑い掛けている。
 
 「黙ってて…ごめんな…でも、生まれながらでさ…霧野には、いつか話そうとは思ってたんだけど…」
 「神童ぉ…」
 「っ…笑って、霧野」
 「っく、やだ、やだよ、たっくん…」
 「!蘭ちゃん、大好きだよ…」
 
 だから、笑って…?
 優しく口付けられる。
 その後、容態は悪化し、神童は……還らぬ人となった。
 
――――続